人が娯楽に求めているものは何か。究極的には「孤独からの解放」ではないかと思います。そう捉えると多くの作品が世に出される理由がわかります。
歌を例に挙げます。K-POPはわかりやすさを追求した最たるものと思います。歌詞はストレートで、歌いやすいメロディーに乗りやすいリズム。初々しさも重要です。特にポップスでは「こんなに悲しい気分なの」あなたはわかってくれるよね的な歌詞が多い。喜怒哀楽を表現する言葉を並べ立て、リスナーに、わかるわかる的な感想を持ってもらえれば大成功。リスナーとのキャッチボールが成立します。
個人的な感情からある世代やある土地に育った人に共通する感情までさまざまあり、ホラー映画でよく使われるメタルのようにダークな音楽では憎しみとか複雑な感情を表現することが多い。
ブルースで盛り上がる曲といったらこれ
「Sweet Home Chicago」1937
Oh, baby, don’t you want to go
Oh, baby, don’t you want to go
Back to the land of California, to my sweet home Chicago
注 このシカゴ、ブルースの都シカゴではなく、カリフォルニア州のポート・シカゴ。まぎらわしい。
ラップのように教訓めいたものから、何かを礼賛するもの、啓蒙するもの、プロパガンダ、批判するものまで内容はさまざまですが、基本的にこういう思いや考えがあるけど、わかるよね、わかってくれるよねというのが基本スタンスと思います。
オペラ「カルメンのハバネラ」
L’amour est enfant de Bohème,
【超訳】 愛はボヘミアン(ジプシーの広義)の子
Il n’a jamais, jamais connu de loi;
ルールなんてない
Si tu ne m’aimes pas, je t’aime;
あなたが愛さなくても、私はあなたを愛する
Si je t’aime,Prends garde à toi!
でも私に愛されたら、気をつけて
人生をうたい上げる曲といったら、ポール・マッカートニー「ザ・ロング・アンド・ワインディング・ロード」。四半世紀前、スペインのカディスの駅に降り立った時、ホームで流れていたのをよく覚えています。十年くらい前の日本公演を見に行きましたが、たしか歌っていました。ビートルズの誰もが知る曲ばかりを演奏するので、目の前でポールが歌っているというより、ヒットメドレーのCDを流しているのではないかという錯覚に陥りました。しかし、自分の作った曲を演奏するために使用料を払い、使用料の何割かを印税として受け取る。複雑な世界だ。
「ザ・ロング・アンド・ワインディング・ロード」
【超訳】
私は今も長く曲がりくねった道にいる
はるか昔、あなたは私をここに置き去りにした
置き去りにしないで、あなたの所に導いてほしい
ボブ・ディランは歌詞に革新を起こしたと言われていますが、改めて読んでみるとかっこいいですね。
Blowin’ In The Wind 【風に吹かれて】
【超訳】
一人前と言われる前に、人はどれだけ道を歩くのか?
白い鳩は砂の上で休む前に、いくつの海を越えるのか?
人が戦争を止める前に、どれだけの砲弾が飛ぶのだろう
友よ、答えは風に吹かれている。
ディランが21歳の時につくった歌詞。ノーベル文学賞を授与したくなる気持ちがわかります。
歌詞がない音楽の場合は、メロディーとリズムに身をゆだねることで、自分でしか作れない時間の流れから解放されるという効果が考えられます。
ただ、芸術となると人々が求めるものは逆説的な場合があると思います。テーマが深遠な作品の場合、むしろ孤独な気持ちに浸ることで孤独から解放されたり、意味あるものが実は意味がなかったり、反対に意味ないものに意味を与えたりと、他者や物事を見つめ直すことで自分自身の思い込みから解放されるといった、ちょっと複雑な過程が体験できるのではないかと思います。