そもそもこの映画を作ったのは、ジャンゴ・ラインハルトというジャズギタリストをテーマに映画が作れないかと考え、日本のジプシージャズミュージシャンを取材し始めたのがきっかけです。その後、コロナ騒ぎで海外取材ができなくなり、創意工夫が始まったという予想外の展開もありました。
ジプシージャズ。誰もが知っているという音楽ではないと思っています。何を隠そう自分自身も取材当初はよく知りませんでした。しかも、ミュージシャンにインタビューしてみると、色々な考えや認識が入り乱れている。そもそもこんなジャンルはないのじゃないかと思うこともありました。
それはさておき、ジャンゴ・ラインハルトは自分にとって妙に魅力的な人物として映っていました。映画作りを通してその魅力が具体的になり、ここでは文字でしか伝えられないことを書こうと思います。
ジャンゴは、18歳の時に火事に巻き込まれて左手の2本の指が使えなくなります。写真などで見る限り、指が伸ばせない状態だったようです。ただ、ジャンゴは音楽を続けることを諦めず、動かせなくなった指は複数の音を抑えるコード弾きのときに活用し、残された人差し指と中指の2本を縦横無尽に動かしソロを弾きます。結果的に、半分の指でしか出ない音の強弱、音と音をつなぎながら演奏する「スライド奏法」により独特のニュアンスやリズム感を生みました。「一音一音の響き」や「音と音の隙間の埋め方」にジャンゴは独自の方法を駆使することで、他に類を見ない音楽を完成させました。
欠点ともいうべき特徴が魅力につながったわかりやすい例です。ジャンゴのような例はまれですが、人にとって欠点こそが個性だったり魅力につながるきっかけや原動力と感じています。ただ、視点を変えれば、魅力も欠点になる場合もあります。魅力として受け止めたり伝えたりできる関係性をつくるのが重要だと思います。ジャンゴの場合、ジャズ・バイオリニストのステファン・グラッペリという盟友であり理解者に出会えたことが、魅力として昇華した最大の要因と思います。
ステファン・グラッペリは第二次大戦中、早い時期にドイツの侵略を恐れてフランスからイギリスに避難し、長い年月ジャンゴと離ればなれになります。ドイツ敗戦後、二人はイギリスで久しぶりに再会を果たし、フランス国歌「ラ・マルセイエーズ」を演奏します。国歌をあんな風に自由に演奏できるのは日本人からみるとすごく不思議なんですが、とても良いんです。ジミ・ヘンドリックスのアメリカ国歌演奏も尖っていますが、その元ネタかと思わせる自由さを感じます。
追記 ビートルズが「All You Need Is Love」の中で「ラ・マルセイエーズ」を拝借していますが、ジョン・レノンはジャンゴ好きだったんですかね。ご存じの方いますか?ホワイトアルバムのThe Continuing Story Of Bungalow Billでも冒頭にジプシー風に弾いてたりするので、ふと関連性を感じました。
興味のある方はYouTubeでお聴きください。